子供の体に水いぼを見つけた時、保護者の方が最も悩むのが、その「治療方針」についてでしょう。「痛い思いをさせてまで、取るべきなのか?」「自然に治るというなら、放置してもいいの?」。実は、水いぼの治療法については、皮膚科医の間でも意見が分かれることがあり、明確な「唯一の正解」というものは存在しません。治療方針は、お子さんの年齢や性格、水いぼの数や場所、アトピー性皮膚炎の有無、そして通っている園の方針などを総合的に考慮して、個別に決定されます。まず、「自然治癒を待つ」という選択肢です。水いぼは、良性のウイルス感染症であり、健康な子供であれば、いずれは体内でウイルスに対する免疫ができます。免疫ができると、いぼは自然に消えていき、一度治れば、同じウイルスに再感染することはありません。この自然治癒までの期間は、個人差が大きく、数ヶ月から、長い場合は2~3年かかることもあります。痛みやかゆみがなく、数が少ない場合や、本人が治療を怖がる場合は、無理に取らずに、増えないか注意深く経過観察をする、というのも、立派な治療方針の一つです。一方、「積極的に取る」という選択肢もあります。その最大の目的は、いぼがさらに増えたり、他の子供にうつしてしまったりするのを防ぐことです。特に、数が急速に増えている場合や、アトピー性皮膚炎があって掻き壊してしまうリスクが高い場合、あるいは、プールなどの関係で、園から取るように指示された場合などは、摘出が勧められます。最も確実な治療法は、「専用のピンセット(トラコーマ鑷子)による摘出」です。いぼの根本をピンセットでつまみ、中身を圧し出すようにして取り除きます。痛みを伴うため、事前に、麻酔成分が含まれたテープ(ペンレステープなど)を貼って、痛みを和らげてから行うのが一般的です。その他、液体窒素で凍らせて取る「凍結療法」や、一部の医療機関では、専用のクリームや漢方薬(ヨクイニン)の内服などが、補助的に行われることもあります。どちらの選択肢にも、メリットとデメリットがあります。大切なのは、保護者の方が両方の選択肢をよく理解した上で、かかりつけの皮膚科医や小児科医とよく相談し、お子さんにとって最も良い方法を、納得して選択することです。
繰り返す膀胱炎。慢性化の原因と予防策
一度治ったはずの膀胱炎が、年に何度も、あるいは数ヶ月のうちに、繰り返し再発してしまう。このような状態を「慢性膀胱炎」あるいは「複雑性膀胱炎」と呼びます。つらい症状に何度も悩まされるだけでなく、治療も長引くことがあり、生活の質を大きく低下させてしまいます。なぜ、膀胱炎は慢性化してしまうのでしょうか。その背景には、いくつかの原因が考えられます。最も大きな原因の一つが、「不完全な治療」です。急性膀胱炎の治療で処方された抗生物質を、症状が少し良くなったからといって、自己判断で服用を中止してしまう。すると、膀胱内に生き残った少数の細菌が、再び増殖を始め、再発の原因となります。また、処方された抗生物質が、原因となっている細菌に効きにくい「薬剤耐性菌」であった場合も、症状がすっきりと治りきらず、慢性化に繋がります。次に、膀胱炎を引き起こす、何らかの「基礎疾患」が隠れている可能性です。例えば、膀胱内に結石があったり、腫瘍があったりすると、それが細菌の温床となり、抗生物質で一時的に菌を叩いても、またすぐに再発してしまいます。また、糖尿病の持病がある人は、免疫力が低下している上、尿中の糖分が細菌のエサとなるため、膀胱炎を繰り返しやすくなります。高齢の男性では、前立腺肥大症によって、排尿後も膀胱に尿が残ってしまう「残尿」が、細菌の繁殖を助長し、慢性化の原因となることもあります。さらに、日々の「生活習慣」も、大きく関わっています。トイレを長時間我慢する癖があると、膀胱内に細菌が滞在する時間が長くなり、増殖の機会を与えてしまいます。また、水分の摂取量が少ないと、尿の量が減り、細菌を洗い流す力が弱まります。ストレスや過労、体の冷えなども、体の免疫力を低下させ、膀胱炎を再発しやすくする引き金となります。繰り返す膀胱炎の治療には、まず、その背景にある原因を突き止めることが不可欠です。泌尿器科で、超音波検査や、詳細な尿検査(培養検査)などを受け、基礎疾患の有無や、原因菌の種類を特定してもらいましょう。そして、日々の生活では、「水分を多めに摂る」「トイレを我慢しない」「体を冷やさない」といった、地道な予防策を続けることが、つらい再発のループを断ち切るための鍵となります。
その残尿感、膀胱炎だけじゃないかも?似た症状の病気
トイレに行った後も、まだ尿が残っているような、スッキリしない不快な感覚。この「残尿感」は、膀胱炎の非常に典型的な症状の一つです。しかし、残尿感があるからといって、必ずしも膀胱炎とは限りません。中には、膀胱炎と似た症状を示す、別の病気が隠れている可能性もあります。適切な治療を受けるためにも、残尿感を引き起こす、他の病気について知っておくことは重要です。まず、女性の場合に考えられるのが、「過活動膀胱(OAB)」です。これは、膀胱に尿が十分に溜まっていないにもかかわらず、膀胱が過敏になって、自分の意思とは関係なく、勝手に収縮してしまう病気です。主な症状は、突然、我慢できないほどの強い尿意を感じる「尿意切迫感」ですが、それに伴って、頻尿や、残尿感を感じることがあります。膀胱炎との大きな違いは、通常、排尿時の痛みや、尿の濁りを伴わない点です。次に、骨盤内の臓器を支えている筋肉(骨盤底筋)が緩むことで、子宮などが下がってくる「骨盤臓器脱」も、残尿感の原因となります。下がってきた臓器が、膀胱や尿道を圧迫することで、排尿がスムーズに行えなくなり、尿が残りやすくなるのです。特に出産経験の多い、中高年の女性に見られます。また、子宮筋腫や卵巣嚢腫といった、婦人科系の腫瘍が大きくなり、膀胱を圧迫して、残尿感を引き起こすこともあります。一方、男性、特に中高年の男性で残尿感がある場合に、最も疑われるのが「前立腺肥大症」です。加齢と共に、膀胱のすぐ下にある前立腺が大きくなり、尿道を圧迫するため、「尿の勢いが弱い」「排尿に時間がかかる」「キレが悪い」といった症状と共に、残尿感が生じます。さらに、男女ともに、尿道が狭くなる「尿道狭窄」や、神経の障害によって膀胱の機能が低下する「神経因性膀胱」、そして、稀ではありますが、「膀胱がん」などの悪性腫瘍が、残尿感の原因となることもあります。このように、残尿感は、様々な病気のサインである可能性があります。特に、排尿時痛がないのに残尿感が続く、あるいは、抗生物質を飲んでも症状が改善しない場合は、自己判断せず、必ず泌尿器科を受診し、超音波検査などで、その背景にある原因を詳しく調べてもらうことが大切です。
彼の頻尿と残尿感。もしかして男性も膀胱炎に?
膀胱炎というと、「女性の病気」というイメージが非常に強いですが、実は、男性も膀胱炎になることがあります。頻度は女性に比べて圧倒的に少ないですが、男性が膀胱炎になった場合、その背景には、女性とは異なる、何らかの基礎疾患が隠れている可能性が高く、より注意深い対応が必要となります。もし、あなたのパートナーが、「最近、トイレが近い」「おしっこの後も、スッキリしない感じがする」といった症状を訴えているなら、それは男性の膀胱炎のサインかもしれません。男性の尿道は、女性に比べて長く(約15~20cm)、また、尿道口が肛門から離れているため、通常、細菌が膀胱まで侵入するのは容易ではありません。そのため、若い男性が、特に原因なく急性膀胱炎になることは、非常に稀です。男性が膀胱炎を発症する場合、その多くは、尿の流れを妨げたり、体の抵抗力を低下させたりする、何らかの「基礎疾患」が存在する「複雑性膀胱炎」です。中高年の男性で、最も多い原因が「前立腺肥大症」です。加齢とともに前立腺が大きくなり、尿道を圧迫するため、排尿後も膀胱に尿が残りやすくなります(残尿)。この溜まった尿の中で、細菌が繁殖し、膀胱炎を引き起こすのです。「尿の勢いが弱い」「排尿に時間がかかる」といった、排尿困難の症状を伴うのが特徴です。また、尿路に結石があったり、カテーテルを留置していたりする場合も、細菌の温床となり、膀胱炎の原因となります。さらに、糖尿病の持病がある人は、免疫力の低下や、尿中の糖分が原因で、男女問わず膀胱炎になりやすくなります。性行為によって、尿道に細菌が感染する「尿道炎」から、炎症が膀胱にまで波及することもあります。この場合は、排尿時の強い痛みや、尿道から膿が出る、といった症状が特徴です。このように、男性の膀胱炎は、単なる膀胱の感染症ではなく、その裏に隠れた病気を見つけ出すための、重要な手がかりとなります。もし、パートナーに膀胱炎を疑う症状が見られたら、「女性の病気だから」と軽視せず、「何か他の病気が隠れているかもしれないから、泌尿器科でちゃんと診てもらおう」と、専門医の受診を強く勧めてあげることが大切です。