「喉が痛くて水を飲むのも辛い」という訴えで来院した、ある三十代女性の症例を振り返ります。彼女は二日前から急激な悪寒と三十九度の熱に見舞われましたが、市販の解熱剤で一度は熱が下がったため、無理をして出社を続けていました。しかし、鏡で自分の喉を見たとき、喉の奥全体が真っ赤に日焼けしたようになり、そこに鮮やかな赤い点が無数に浮かび上がっているのを見て、恐怖を感じて当院を受診されました。診察室で確認した喉の所見は、まさに教科書通りの「溶連菌感染症」の特徴を示していました。喉の奥の赤いぶつぶつは、単なる炎症ではなく、点状出血に近い激しい反応であり、舌の表面も乳頭が赤く盛り上がる「苺舌」の状態に近づいていました。迅速検査の結果は強陽性。この女性の事例で最も危惧すべきだったのは、大人が溶連菌を「ただの喉風邪」と侮ってしまうことのリスクです。子供の病気というイメージが強い溶連菌ですが、大人が感染すると全身の倦怠感が非常に強く、さらに深刻なのは、適切な抗生物質を十分な期間服用しないと、数週間後に急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった後遺症を引き起こす可能性がある点です。この患者さんには、ペニシリン系の抗生物質を十日間飲み切るよう強く指導しました。服用から二十四時間後にはあんなに酷かった赤いぶつぶつと痛みは消え始め、彼女は「魔法のように治った」と驚かれましたが、そこに落とし穴があります。症状が消えたからといって、勝手に薬を中断してしまうと、体内に残った菌が再び暴れ出し、合併症の引き金になります。大人の喉の奥に現れる、痛みを伴う赤い点々やザラザラ感は、細菌という名の「毒」が全身に回ろうとしている警報装置なのです。また、溶連菌は非常に感染力が強いため、職場での集団感染の原因にもなり得ます。彼女のケースでは、同僚にも同様の症状を持つ人が複数いたことが後に判明しました。喉の赤いぶつぶつを「体質」や「疲れ」で片付けず、細菌感染という科学的な可能性を疑い、適切な検査を受けること。そして、処方された薬を医師の指示通り最後まで完遂すること。この一連のルールを守ることこそが、大人が溶連菌という脅威から身を守り、社会的な責任を果たすための唯一の道であることを、この症例は雄弁に物語っています。
喉のザラつきと赤い点から判明した溶連菌の脅威