咳が止まらずつらいけれど、すぐに病院へ行く時間がない。そんな時、ドラッグストアで手に入る市販薬は、頼りになる存在です。しかし、咳の原因によって、選ぶべき薬の種類は全く異なります。自分の症状に合わない薬を選んでしまうと、効果がないばかりか、かえって症状を悪化させてしまう可能性さえあります。市販薬を上手に活用するためには、その成分と働き、そして限界を理解しておくことが重要です。市販の咳止めは、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、咳中枢に作用して、咳の反射そのものを抑える「鎮咳薬(ちんがいやく)」です。コンコンと続く、痰の絡まない「空咳(からぜき)」に効果的です。「デキストロメトルファン」や「ジヒドロコデインリン酸塩」といった成分が、これにあたります。ただし、これらの成分は、痰を排出する力も弱めてしまうため、痰が絡む咳に使うと、気道に痰が溜まり、症状を悪化させる危険性があります。もう一つは、気道に溜まった痰を出しやすくする「去痰薬(きょたんやく)」です。「カルボシステイン」や「アンブロキソール」といった成分が、痰の粘り気を分解してサラサラにしたり、気道の線毛運動を活発にして、痰の排出を助けたりします。ゴホンゴホンと、痰が絡んでゼロゼロする「湿った咳」には、こちらのタイプが適しています。製品によっては、これらの鎮咳成分と去痰成分が、両方配合されているものもあります。しかし、これらの市販薬には、明確な「限界」があることを忘れてはなりません。市販薬は、あくまで一時的に症状を和らげるための「対症療法」です。咳喘息や気管支喘息のように、気道の慢性的な炎症が原因である場合、市販の咳止めでは、根本的な炎症を抑えることはできません。また、細菌感染による肺炎などには、抗生物質による治療が必要です。そして、何よりも重要なのは、「3週間以上続く咳」は、もはやセルフケアで対応すべき範囲を超えている、ということです。長引く咳の背後には、市販薬では対応できない、専門的な診断と治療が必要な病気が隠れている可能性が高まります。市販薬は、あくまで初期の、短期的な症状緩和のためのツールと位置づけ、咳が長引く場合は、必ず呼吸器内科などの専門医を受診するようにしてください。