みぞおちのあたりが痛むと、私たちは反射的に「胃が悪い」と考えがちです。しかし、お腹の上部は、胃以外にも、様々な重要な臓器が密集している場所です。そして、それらの臓器の病気が、胃の痛みとよく似た症状を引き起こすことは、決して珍しくありません。「胃が痛い」という自己判断が、時に、重大な病気の見逃しに繋がる危険性があることを、知っておく必要があります。胃のすぐ隣にあり、症状が混同されやすい臓器の代表格が、「胆嚢」と「膵臓」です。胆嚢に石ができる「胆石症」は、普段は無症状のことも多いですが、石が胆嚢の出口に詰まると、「胆石発作」と呼ばれる、みぞおちから右の肋骨下にかけての、転げ回るほどの激痛を引き起こします。特に、脂っこい食事をした後に起こりやすいのが特徴です。また、アルコールの飲み過ぎなどが原因で、膵臓に急激な炎症が起こる「急性膵炎」も、みぞおちの激しい痛みが特徴です。この痛みは、背中にも突き抜けるように感じられることが多く、嘔吐を伴い、重症化すると命に関わる、緊急性の高い病気です。そして、最も注意しなければならないのが、「心臓」の病気です。「狭心症」や「心筋梗塞」といった、心臓の血管が詰まる病気の痛みが、胸だけでなく、みぞおちの痛みとして感じられる「放散痛」として現れることがあります。特に、高齢者や糖尿病患者では、典型的な胸の痛みが出にくく、胃の不快感としてしか自覚されないこともあります。「階段を上るとみぞおちが痛む」「冷や汗や息苦しさを伴う」といった場合は、心臓からの危険信号かもしれません。この場合は、一刻も早く、循環器内科や救急外来を受診する必要があります。その他にも、大腸のうち、みぞおちの近くを通る「横行結腸」の病気や、稀ですが、大動脈の壁が裂ける「大動脈解離」という、極めて危険な病気が、みぞおちの痛みとして発症することもあります。胃の痛みだと決めつけず、痛みの性質や、伴う症状をよく観察し、少しでも「いつもと違う」と感じたら、迷わず専門医に相談してください。