朝の一歩目のかかとの痛み。これは、足底腱膜炎の非常に特徴的な症状ですが、「かかとの痛み=足底腱膜炎」と、安易に自己判断してしまうのは、少し危険かもしれません。なぜなら、似たような症状を引き起こす、別の病気の可能性も考えられるからです。整形外科では、問診や診察、そしてレントゲンなどの検査を通して、これらの病気ではないことを確認する「鑑別診断」というプロセスが、非常に重要になります。ここでは、足底腱膜炎と間違えやすい、いくつかの病気について解説します。まず、レントゲンを撮ることで明らかになるのが、「踵骨棘(しょうこつきょく)」の有無です。これは、長期間にわたる足底腱膜の牽引によって、かかとの骨が、トゲのように変形してしまった状態です。この骨のトゲそのものが、痛みの直接的な原因となっている場合もあります。次に、神経の圧迫が原因で、かかとに痛みやしびれが出ているケースです。一つは、足首の内側で神経が圧迫される「足根管症候群」。もう一つは、腰に原因がある「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」による、坐骨神経痛の一症状として、かかとに痛みを感じる場合です。この場合は、かかとだけでなく、お尻や太もも、ふくらはぎなど、他の部分にも痛みやしびれが広がっていることが多いです。また、アキレス腱の付着部、つまり、かかとの後ろ側が痛む場合は、「アキレス腱付着部炎」の可能性があります。これは、足底腱膜炎とは痛む場所が明確に異なります。さらに、若いスポーツ選手などでは、繰り返しの負荷による、かかとの骨の「疲労骨折」も考えられます。これは、安静にしていても痛みが続くのが特徴です。そして、頻度は低いですが、見逃してはならないのが、全身性の病気です。「関節リウマチ」や「強直性脊椎炎」といった、膠原病の一症状として、かかとの腱付着部に炎症が起こることがあります。この場合は、かかとだけでなく、他の関節にも痛みや腫れ、朝のこわばりといった症状が見られます。また、非常に稀ですが、骨の腫瘍や、細菌感染による骨髄炎が、かかとの痛みの原因となっていることもあります。このように、かかとの痛みの背景は、多岐にわたります。症状が長引く、あるいは典型的な足底腱膜炎の経過とは異なる場合は、必ず専門医の診察を受け、正確な原因を突き止めてもらうことが、何よりも大切です。