風邪をひいた後、熱や喉の痛みは治まったのに、なぜか咳だけがいつまでも続く。特に、一度出始めると止まらない、コンコンと乾いたしつこい咳。このような症状に悩まされている場合、その原因は、一般的な風邪ウイルスではなく、「マイコプラズマ」という、少し特殊な病原体による感染症かもしれません。そして、このマイコプラズマ感染症の最大の特徴であり、患者を最も苦しめるのが、その咳が非常に「長く続く」という点です。では、この厄介な咳は、一体いつまで続くのでしょうか。一般的な風邪の咳は、通常1週間から長くても2週間程度で、徐々に軽快していきます。しかし、マイコプラズマによる咳は、その期間が全く異なります。多くの場合、適切な治療(抗生物質の内服)を開始しても、すぐに咳がぴたりと止まるわけではありません。治療によって、体内の菌は減少し、熱などの全身症状は改善しますが、咳はその後も、3週間から4週間、長い場合は1ヶ月以上にわたって、しつこく続くことが珍しくないのです。なぜ、これほどまでに咳が長引くのでしょうか。その理由は、マイコプラズマという菌が、気管や気管支の粘膜に、深くダメージを与えてしまうためです。ウイルスとは異なり、マイコプラズマは、細胞の中に入り込んで増殖し、気道の粘膜にある線毛(せんもう)という、異物を外に排出するための重要な組織を破壊してしまいます。このダメージによって、気道は非常に敏感で、過敏な状態(気道過敏性)になります。そのため、感染の急性期が過ぎた後も、わずかな刺激(冷たい空気、会話、ホコリなど)に対しても、過剰に反応して、激しい咳の発作を引き起こしてしまうのです。この状態は、「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」とも呼ばれます。つまり、菌そのものはいなくなっても、菌が残した「爪痕」によって、咳が長引いてしまう、というわけです。この長引く咳の見通しを知っておくことは、患者自身の不安を和らげる上で、非常に重要です。「まだ咳が治らない」と焦るのではなく、「マイコプラズマの咳は、もともと長引くものなのだ」と理解し、腰を据えて治療に臨む姿勢が大切になります。
マイコプラズマの咳はいつまで続くのか