夏バテの腹痛というと、多くの人は下痢をイメージするかもしれません。しかし、中には、「下痢と便秘を、交互に繰り返す」という、非常に厄介な症状に悩まされる人もいます。お腹が張って苦しい便秘が数日続いたかと思えば、今度は、急な腹痛と共に、激しい下痢に襲われる。この不安定な腸の状態は、夏の過酷な環境によって、自律神経のバランスが大きく乱れてしまった結果、引き起こされることが多いです。これは、ストレスなどが原因で起こる「過敏性腸症候群(IBS)」の症状と、非常によく似ています。私たちの腸の動き(蠕動運動)は、自律神経によって、精巧にコントロールされています。リラックスしている時に優位になる「副交感神経」が、腸の動きを活発にし、緊張している時に優位になる「交感神経」が、腸の動きを抑制します。しかし、夏の、猛暑と冷房による激しい温度差や、寝苦しさによる睡眠不足は、この自律神経のスイッチングを混乱させてしまいます。その結果、腸の動きが、極端から極端へと、大きく揺れ動いてしまうのです。副交感神経が過剰に働くと、腸が異常に収縮して、けいれん性の腹痛と共に、内容物が十分に水分を吸収される前に排出されてしまう「下痢」となります。逆に、交感神経が優位な状態が続くと、腸の動きが鈍くなり、便が腸内に長時間留まって、水分が過剰に吸収されて硬くなる「便秘」となります。この、下痢と便秘の繰り返しは、肉体的な苦痛だけでなく、「またいつ、お腹が痛くなるか分からない」という、精神的な不安も引き起こし、生活の質を大きく低下させます。この症状を改善するためには、まず、自律神経のバランスを整える生活を心がけることが、何よりも大切です。冷たいものの摂りすぎを避け、お腹を冷やさないようにする。ぬるめのお湯にゆっくり浸かり、リラックスする時間を作る。そして、できるだけ規則正しい生活と、十分な睡眠を確保する。これらの地道な努力が、気まぐれな腸の働きを、穏やかな状態へと導いてくれるのです。
下痢と便秘を繰り返す夏の腹痛