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声が出ない時はまず耳鼻咽喉科へ
ある朝、目が覚めたら声が出ない。あるいは、風邪をひいた後から、声がかすれて元に戻らない。そんな「声が出ない」という症状に直面した時、多くの人が「何科を受診すれば良いのだろう?」と迷ってしまうかもしれません。内科なのか、それとも別の専門科なのか。その問いに対する最も的確な答え、それは「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科は、その名の通り、耳、鼻、そして喉(咽頭・喉頭)の専門家です。声は、喉の奥にある「声帯」という二本のひだが振動することによって生まれます。声が出ない、あるいは声がかすれるといった症状のほとんどは、この声帯に何らかの異常が起きていることが原因です。耳鼻咽喉科には、「喉頭ファイバースコープ」という、鼻から細いカメラを入れて、声帯の状態を直接、鮮明な映像で観察するための専門的な検査機器があります。これにより、声帯が炎症で赤く腫れているのか、ポリープや結節ができているのか、あるいは動きが悪くなっていないかなどを、その場で正確に診断することができるのです。風邪による急性声帯炎、声の使いすぎによる声帯ポリープ、そして稀ではありますが、反回神経麻痺や喉頭がんといった、より深刻な病気の初期症状である可能性も考えられます。これらの病気は、内科の一般的な診察では見つけることが困難です。声のトラブルは、声の専門家である耳鼻咽喉科医に診てもらうのが、最も確実で、そして最も安全な選択です。もし、他の科への受診が必要な場合でも、耳鼻咽喉科医が適切に判断し、紹介してくれます。何科に行くべきか迷ったら、まずは「声の総合窓口」である耳鼻咽喉科の扉を叩くこと。それが、的確な診断と治療への最短ルートなのです。
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私が胃の激痛で救急外来に駆け込んだ夜
それは、残業続きで心身ともに疲れ果てていた、ある平日の夜のことでした。夕食を終え、ソファでくつろいでいると、みぞおちのあたりに、これまで感じたことのないような、焼け付くような激痛が、突然襲いかかってきました。まるで、熱した鉄の棒を、胃に突き刺されたかのような痛み。あまりの激しさに、息ができず、冷や汗が全身から噴き出してきました。最初は、ただの胃けいれんだろうと、体を丸めて痛みが過ぎ去るのを待っていました。しかし、痛みは一向に和らぐ気配がなく、むしろ、波のように、繰り返し襲ってきます。市販の胃薬を飲もうにも、体を起こすことすらままなりません。このままではまずい、と本能的な恐怖を感じた私は、深夜にもかかわらず、家族に頼んで、救急外来へ連れて行ってもらうことにしました。病院の待合室で、痛みに耐えながら待つ時間は、永遠のように長く感じられました。診察室に呼ばれ、医師に症状を伝えると、すぐに血液検査と腹部のエコー検査が行われました。そして、告げられた診断は、「急性胃炎」ではなく、「急性胆石発作」でした。胆嚢にできていた小さな石が、何かの拍子に胆嚢の出口に詰まり、激しい痛みを引き起こしていたのです。私自身、健康診断で「胆石がある」と指摘されてはいましたが、無症状だったため、完全に油断していました。医師からは、「暴飲暴食や、脂肪分の多い食事、そしてストレスが引き金になることが多いんですよ」と説明を受けました。その日の夜は、点滴で痛み止めと炎症を抑える薬を投与してもらい、なんとか痛みのピークを乗り越えることができました。後日、改めて消化器外科を受診し、腹腔鏡による胆嚢の摘出手術を受けることになりました。あの夜の経験は、私にとって大きな教訓となりました。胃だと思い込んでいた痛みが、実は全く別の臓器からのSOSだったこと。そして、自己判断で我慢することの恐ろしさ。体の異変を感じたら、たとえ夜中であっても、専門家の助けを求める勇気が、いかに大切であるかを、身をもって知った出来事でした。
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胃の痛みを和らげる市販薬の正しい選び方
急な胃の痛みや不快感に見舞われた時、すぐに病院へ行けない場合の、心強い味方が、ドラッグストアで手に入る「市販の胃薬」です。しかし、棚に並んだ数多くの製品は、それぞれに特徴があり、自分の症状に合わないものを選んでしまうと、効果がないばかりか、かえって症状を悪化させてしまう可能性もあります。市販薬を上手に活用するためには、その成分と働きを正しく理解することが重要です。市販の胃薬は、その主な作用によって、いくつかのタイプに分類されます。まず、胃酸の出過ぎが原因で起こる、キリキリとした痛みや胸焼けに効果的なのが、「胃酸分泌抑制薬」と「制酸薬」です。「胃酸分泌抑制薬」には、「H2ブロッカー」と呼ばれる成分(ガスター10など)が含まれており、胃酸の分泌そのものを強力に抑えます。「制酸薬」は、すでに出てしまった胃酸を、アルカリ性の成分で中和することで、速やかに症状を和らげます。次に、胃の粘膜が荒れてしまっている場合に有効なのが、「胃粘膜保護修復薬」です。胃の粘膜の表面に膜を張って、胃酸の攻撃から守ったり、荒れた粘膜の修復を促したりする働きがあります。空腹時の痛みや、ストレス性の胃炎に適しています。一方、食べ過ぎや飲み過ぎによる、胃もたれや消化不良が主な症状の場合は、「消化薬」が適しています。脂肪やタンパク質、炭水化物の分解を助ける「消化酵素」が配合されており、弱った胃の働きをサポートしてくれます。そして、胃の動きそのものが悪くなっていると感じる場合は、「健胃薬」や「胃腸運動改善薬」が選択肢となります。生薬成分などが、胃の蠕動運動を活発にし、内容物の排出を促します。このように、一口に胃薬と言っても、そのアプローチは様々です。自分の症状が、「胃酸の攻撃」によるものなのか、「胃の防御力の低下」によるものなのか、あるいは「胃の運動機能の低下」によるものなのかを、見極めることが、正しい薬選びの第一歩です。そして、最も大切なことは、市販薬はあくまで「一時的な症状緩和」のためのものである、ということです。数日間服用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、自己判断を続けず、必ず医療機関を受診してください。
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痛みを和らげる自分でできるストレッチ
朝のかかとの激痛を和らげ、足底腱膜炎の回復を促すためには、硬くなってしまった足底腱膜や、それに関連する筋肉の柔軟性を取り戻すことが、何よりも重要です。病院での治療と並行して、自宅でできる簡単なストレッチを、毎日の習慣にしましょう。痛みを我慢して無理に行うのは逆効果ですが、根気よく続けることで、症状は確実に改善に向かいます。まず、最も直接的で効果的なのが、「足底腱膜そのもののストレッチ」です。これは、特に痛みが強い、朝起きてベッドから降りる前に行うのがおすすめです。椅子に座るか、床に座って、痛い方の足を、反対側の膝の上に乗せます。そして、手で足の指の付け根から指先全体をしっかりと掴み、足の甲の方へ、ゆっくりと、ぐーっと反らせていきます。足の裏の腱膜が、ピンと張っているのを感じながら、その状態で15秒から30秒間キープします。これを数回繰り返します。この「起き抜けストレッチ」を行うだけで、朝の第一歩目の衝撃は、かなり和らぐはずです。次に、足底腱膜と密接に繋がっている、「アキレス腱とふくらはぎのストレッチ」も、同様に重要です。壁に向かって立ち、両手を壁につけます。痛い方の足を、一歩大きく後ろに引き、かかとを床から離さないように意識しながら、前の膝をゆっくりと曲げていきます。ふくらはぎの筋肉が、心地よく伸びているのを感じながら、30秒間キープします。これを左右交互に、数セット行いましょう。お風呂上がりなど、筋肉が温まっている時に行うと、より効果的です。また、足の裏のアーチを支える、内在筋と呼ばれる小さな筋肉を鍛えることも、再発予防に繋がります。床にタオルを広げ、かかとを床につけたまま、足の指の力だけで、タオルをくしゃくしゃと、たぐり寄せる「タオルギャザー運動」は、手軽で効果的なトレーニングです。さらに、ゴルフボールやテニスボールを床に置き、足の裏で優しくゴロゴロと転がすマッサージも、硬くなった腱膜をほぐし、血行を促進するのに役立ちます。これらのストレッチや運動は、魔法のようにすぐに効くわけではありません。しかし、毎日コツコツと続ける、その地道な努力こそが、痛みのない快適な一歩を取り戻すための、最も確実な道なのです。
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アレルギーが原因で咳が止まらない?
春になるとスギ花粉、秋にはブタクサ。特定の季節になると、決まって咳が出始める。あるいは、ホコリっぽい部屋に入ったり、ペットと遊んだりした後に、咳が止まらなくなる。このような、特定の状況下で悪化する咳は、アレルギーが原因となっている可能性が非常に高いです。アレルギー反応によって引き起こされる長引く咳は、「アトピー咳嗽(がいそう)」と呼ばれ、咳喘息と並んで、慢性的な咳の主要な原因の一つとなっています。アトピー咳嗽は、咳喘息と症状が非常によく似ており、痰の絡まない乾いた咳が、特に夜間や早朝に悪化する傾向があります。冷たい空気やタバコの煙、運動などが、咳の引き金となる点も共通しています。しかし、両者には決定的な違いがあります。咳喘息は、気管支拡張薬が有効であるのに対し、アトピー咳嗽には、この薬が全く効きません。その代わり、アレルギー反応を抑える「抗ヒスタミン薬」や、気道の炎症を抑える「吸入ステロイド薬」が、劇的な効果を示します。この治療薬への反応の違いが、診断の重要な手がかりとなります。アトピー咳嗽の背景には、何らかのアレルギー素因、つまり「アトピー体質」があることがほとんどです。患者さん自身や、家族に、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息といった、他のアレルギー疾患がある場合が多いのも特徴です。原因となるアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)は、人によって様々です。スギやヒノキ、イネ科植物などの「花粉」、ダニやハウスダスト、カビといった「室内アレルゲン」、そして、犬や猫などの「ペットの毛やフケ」などが、代表的なものです。これらのアレルゲンを吸い込むことで、気道にアレルギー性の炎症が起こり、咳のセンサーが過敏になって、しつこい咳が引き起こされるのです。治療の第一歩は、まず、自分が何に対してアレルギーを持っているのかを特定することです。アレルギー科や呼吸器内科、耳鼻咽喉科などで、血液検査(特異的IgE抗体検査)や、皮膚テストを行うことで、原因アレルゲンを調べることができます。そして、治療の基本は、薬物療法と並行して、そのアレルゲンを、日常生活からできるだけ「回避」することです。こまめな掃除や、空気清浄機の使用、花粉飛散時の外出の工夫など、地道な環境整備が、つらい咳から解放されるための、最も確実な道となります。
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風邪の時のオンライン診療という選択
風邪をひいて体調は悪いけれど、仕事が休めない。小さな子どもがいて、病院へ連れて行くのが大変。あるいは、院内での二次感染が心配。そんな、現代人ならではの悩みに応える、新しい医療の形として、「オンライン診療」が注目を集めています。風邪のような、比較的軽度な症状の場合、このオンライン診療は、非常に有効な選択肢となり得ます。オンライン診療の最大のメリットは、その「利便性」です。スマートフォンやパソコンを使い、自宅や職場にいながら、ビデオ通話などを通じて、医師の診察を受けることができます。病院へ行くための移動時間や、待合室での長い待ち時間から解放されるのは、体調が優れない時には、何よりの助けとなります。また、他の患者と接触することがないため、インフルエンザや新型コロナウイルスなどが流行している時期でも、院内感染のリスクを心配する必要がありません。診察後は、処方箋が自宅近くの薬局にファックスなどで送られ、薬を受け取ることができます。薬局によっては、薬の宅配サービスを行っている場合もあります。このように、非常に便利なオンライン診療ですが、もちろん「限界」もあります。最大のデメリットは、医師が患者の体に直接触れる「触診」や、聴診器で音を聞く「聴診」ができないことです。そのため、得られる情報が限られ、診断の精度が対面診療に劣る可能性があります。喉の奥を詳しく見たり、迅速検査を行ったりすることもできません。したがって、オンライン診療が適しているのは、症状が比較的軽く、問診だけで診断がある程度可能な、一般的な風邪などのケースです。高熱が続いている、呼吸が苦しい、激しい痛みを伴うといった、重症が疑われる場合は、オンライン診療ではなく、必ず対面での診察を受ける必要があります。オンライン診療は、万能な解決策ではありません。しかし、そのメリットとデメリットを正しく理解し、対面診療と賢く使い分けることで、私たちの医療へのアクセスを、より柔軟で、身近なものにしてくれる、心強いツールとなるでしょう。
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痛みの場所でわかるしびれの原因
片足のしびれと言っても、その症状が「足のどの部分」に現れるかによって、圧迫されている神経や、原因となっている病気を、ある程度推測することができます。自分のしびれの範囲を正確に把握し、医師に伝えることは、スムーズな診断の大きな助けとなります。まず、「お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、そして足の外側や足先」にかけて、まるで電線のようにしびれや痛みが走る場合。これは「坐骨神経痛」と呼ばれる症状の典型的なパターンです。坐骨神経は、人体で最も太く長い末梢神経で、腰から出て、お尻、太ももの後ろを通り、足先まで伸びています。この坐骨神経の通り道のどこかで圧迫が起こると、その神経が支配する領域全体に、症状が広がります。原因としては、「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」、「梨状筋症候群」などが、最も多く考えられます。次に、「太ももの前側や、すねの内側」がしびれる場合。これは、坐骨神経とは別の、大腿神経という神経が、腰の上の方(主に第2~第4腰椎)で圧迫されている可能性を示唆します。比較的高位の椎間板ヘルニアや、脊柱管狭窄症が原因となり得ます。一方、「足の裏」や「足の指先」だけが、ピンポイントでしびれる場合。これは、腰の問題ではなく、足首にある「足根管」というトンネルで神経が圧迫される「足根管症候群」の可能性があります。長時間の立ち仕事や、足首の捻挫などが引き金になることがあります。また、糖尿病性神経障害の初期症状も、足の指先のジンジンとしたしびれから始まることが多いです。そして、しびれが特定の「帯状」の範囲、例えば、脇腹から太ももの外側にかけて、といったように現れる場合は、「帯状疱疹」の初期症状である可能性も考えられます。この場合、数日後に、そのしびれの範囲に一致して、赤い発疹や水ぶくれが出現します。このように、しびれの分布(デルマトーム)は、神経の圧迫部位を特定するための、重要な地図となります。自分の症状を観察する際に、ぜひ意識してみてください。
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私がマイコプラズマの咳に苦しんだ一ヶ月
あれは、秋が深まり始めた頃でした。最初は、微熱と、乾いた咳から始まりました。いつもの風邪だろうと、市販の薬を飲んで様子を見ていましたが、咳は日を追うごとにひどくなっていきました。特に、夜ベッドに入ると、胸の奥からこみ上げてくるような、激しい咳の発作に襲われ、眠れない夜が続きました。一度咳き込むと、息が苦しくなるまで止まらず、まるでマラソンを全力疾走したかのように、体力を消耗しました。さすがにおかしいと思い、内科を受診しましたが、胸の音は綺麗だということで、気管支炎の薬を処方されただけでした。しかし、その薬を飲んでも、咳は一向に治まる気配がありません。発症から2週間が経つ頃には、日中も、会話の途中で咳き込んでしまったり、電車の中で周りの視線が気になったりと、日常生活にも大きな支障が出始めていました。あまりの症状の長さに、私は藁にもすがる思いで、呼吸器専門のクリニックを訪れました。そこで、これまでの経緯と、特徴的な咳の症状を話すと、医師はすぐに「マイコプラズマの可能性が高いですね」と言い、血液検査を行いました。数日後に出た結果は、やはり陽性。原因がはっきりしたことに安堵すると同時に、私は医師に尋ねました。「先生、この咳は、いつまで続くのでしょうか」。医師の答えは、「抗生物質を飲んでも、咳だけは3~4週間、長引くことが多いですよ」という、少し覚悟を要するものでした。しかし、その言葉は、先の見えない不安の中にいた私に、一つの見通しを与えてくれました。処方されたマクロライド系の抗生物質を飲み始めると、数日で熱は下がり、体の倦怠感は楽になりました。しかし、医師の言った通り、咳だけは、その後も2週間以上、しつこく続きました。咳が完全に気にならなくなり、心から「治った」と実感できたのは、最初の症状が出てから、実に一ヶ月以上が経過した後のことでした。たかが咳、されど咳。マイコプラズマの咳が、これほどまでに長く、そして深く、人の心と体を蝕むものであることを、私はこの身をもって知ったのです。
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夏バテの腹痛を和らげる食事のポイント
夏バテによる腹痛や下痢に悩まされている時、弱った胃腸をさらに刺激するような食事は、症状を悪化させるだけです。回復を早めるためには、胃腸に負担をかけず、かつ、失われた水分と栄養を、効率よく補給できるような食事を、意識的に選ぶことが重要になります。まず、大原則として、キンキンに冷えた食べ物や飲み物は、絶対に避けましょう。胃腸を直接冷やすことは、消化機能の低下を招く最大の原因です。飲み物は、冷たい麦茶やジュースではなく、常温の水や白湯、あるいは、カフェインの少ない、人肌程度のほうじ茶などがおすすめです。食事の基本は、「消化が良く、温かいもの」です。主食としては、水分を多く含み、柔らかく調理された、温かいおかゆや、よく煮込んだうどんが最適です。具材を加えるなら、豆腐や、脂肪分の少ない鶏のささみ、白身魚(タラなど)といった、高タンパクで低脂肪な食材を選びましょう。タンパク質は、荒れた胃腸の粘膜を修復するのに役立ちます。野菜は、食物繊維の多い、ごぼうやきのこ類は避け、大根やカブ、じゃがいも、かぼちゃなどを、スープや煮物にして、クタクタになるまで柔らかく煮込むのが良いでしょう。特に、大根やカブには、消化を助ける酵素が含まれているため、弱った胃腸には最適です。調理法も、揚げる、炒めるといった、油を多く使う方法は避け、煮る、蒸す、茹でるといった、シンプルな方法を心がけてください。香辛料や、酢の物などの酸味が強いもの、そして、お菓子やジュースなどの糖分が多いものも、胃腸を刺激するため、症状が落ち着くまでは控えましょう。また、一度にたくさん食べるのではなく、少量ずつ、数回に分けて食べることも、胃腸の負担を軽減する上で、非常に効果的です。下痢がひどい時は、無理に固形物を食べる必要はありません。まずは、経口補水液などで、失われた水分と電解質を補給することに専念してください。そして、少し症状が落ち着いてきたら、これらの胃腸に優しい食事を、少しずつ試していく。焦らず、自分の体の声を聞きながら、優しく栄養を届けてあげることが、回復への一番の近道です。
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咳喘息という見過ごされやすい病気
風邪をひいた後、他の症状は治まったのに、咳だけが何週間も、時には何ヶ月も続いている。特に、夜中や明け方に激しく咳き込んで目が覚める。エアコンの冷たい風や、タバコの煙、会話などをきっかけに、一度咳き込むと止まらなくなる。このような症状に心当たりがある場合、それは単なる「咳が長引いている」状態ではなく、「咳喘息(せきぜんそく)」という、専門的な治療が必要な病気かもしれません。咳喘息は、気管支喘息の一歩手前の段階とも言える病気で、近年、長引く咳の原因として、その認知度が高まっています。気管支喘息との大きな違いは、喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)や、呼吸困難といった症状がなく、唯一の症状が「慢性的な空咳(からぜき)」であるという点です。症状が咳だけであるため、本人も周囲も、喘息だとは気づきにくく、風邪や気管支炎として見過ごされ、市販の咳止めや、一般的な風邪薬で対処しようとして、なかなか改善しないケースが非常に多く見られます。咳喘息の根本的な原因は、気管支喘息と同様に、気道の粘膜に起きている「慢性的なアレルギー性の炎症」です。この炎症によって、気道が非常に敏感な状態(気道過敏性)になっており、通常では何ともないような、わずかな刺激(温度差、ホコリ、ストレスなど)に対しても、過剰に反応して、激しい咳の発作を引き起こしてしまうのです。診断は、呼吸器内科で行われます。特徴的な症状の問診に加え、呼吸機能検査で、気管支拡張薬を吸入した後に、気道の狭さが改善するかどうかなどを調べることで、診断がつけられます。治療の基本は、市販の咳止めではなく、気道の炎症そのものを抑えるための「吸入ステロイド薬」です。この薬を、毎日、症状がない時でも継続して使用することで、気道の過敏な状態を鎮め、咳の発作を予防します。咳喘息を放置していると、約3割の人が、本格的な気管支喘息に移行すると言われています。たかが咳と侮らず、長引く場合は、呼吸器の専門医に相談し、早期に適切な治療を開始することが、将来の健康を守る上で、何よりも重要です。