声が出ない、というトラブルに見舞われた時、多くの人が最初に思い浮かべるのは、風邪の延長線上として「内科」かもしれません。しかし、声の異常に関しては、「耳鼻咽喉科」こそが、診断と治療における真のスペシャリストです。なぜ、耳鼻咽喉科が声の専門家と言えるのでしょうか。その理由は、彼らが持つ専門知識と、特殊な検査機器にあります。私たちの声は、喉の奥にある、長さ一センチから二センチ程度の、二本のひだ状の筋肉「声帯」が、肺から送られてくる呼気によって、一秒間に数百回も高速で振動することで生まれます。声が出ない、あるいはかすれるという症状は、この声帯に何らかの異常、例えば炎症や、ポリープ、麻痺などが起きていることを意味します。内科の医師が、聴診器や舌圧子(舌を押さえるヘラ)を使って診察する範囲は、主に口の奥の「咽頭」までです。そのさらに奥にある、声帯が存在する「喉頭」の状態を、直接見ることはできません。そのため、内科での診断は、問診や、喉の赤みといった間接的な所見からの、推測にならざるを得ないのです。しかし、耳鼻咽喉科医は違います。彼らは、「喉頭ファイバースコープ」という、強力な武器を持っています。これは、直径数ミリの、非常に細く柔らかい内視鏡で、これを鼻の穴から挿入し、喉の奥へと進めていくことで、声帯の状態を、モニター上で、直接、鮮明に観察することができるのです。「あー」「えー」と声を出してもらいながら、声帯が正しく振動しているか、左右対称に動いているか、表面は滑らかか、ポリープや腫瘍のような出来物はないか、などを、ミリ単位で詳細に診断します。この検査により、声が出ない原因が、単なる炎症なのか、声の使いすぎによるポリープなのか、あるいは神経の麻痺や、悪性の腫瘍なのかを、極めて高い精度で鑑別することが可能になります。声の異常は、まさにミクロの世界の問題です。そのミクロの世界を直接覗き込み、的確な診断を下せる唯一の専門家、それこそが、耳鼻咽喉科医なのです。
なぜ耳鼻咽喉科が声の専門家なのか