-
耳鼻咽喉科へ行くべき咳の見分け方
長引く咳に悩まされた時、多くの人は内科や呼吸器内科を思い浮かべますが、実はその咳の原因が「鼻」や「喉」にあるケースは、決して少なくありません。このような場合、呼吸器の専門家ではなく、鼻と喉の専門家である「耳鼻咽喉科」を受診することが、問題解決への最も早い近道となります。では、どのような症状があれば、耳鼻咽喉科を訪れるべきなのでしょうか。その見分け方のポイントは、「咳以外の、鼻や喉の随伴症状」にあります。まず、最も代表的なのが、「鼻水」や「鼻づまり」を伴う咳です。特に、粘り気のある、色のついた鼻水が続く場合は、「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」、いわゆる蓄膿症の可能性があります。副鼻腔で起きた炎症によって作られた膿を含んだ鼻水が、喉の奥へと流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」となり、これが気管を刺激して、痰が絡んだような、湿った咳を引き起こすのです。日中は鼻をかむことで排出できますが、就寝中は無意識に喉に流れ込み続けるため、特に、朝起きた時に咳き込むことが多いのが特徴です。同様に、「アレルギー性鼻炎」でも、水のような鼻水が後鼻漏となり、咳の原因となることがあります。次に、「喉の痛みやイガイガ感、声がれ」が、咳と共に続いている場合も、耳鼻咽喉科の領域です。喉の奥、鼻と喉の境目にある「上咽頭」に、慢性的な炎症が起きている(慢性上咽頭炎)と、その刺激で咳が出やすくなります。また、声帯にポリープができていたり、炎症があったりする場合も、声がれと共に、咳払いを繰り返すような症状が現れます。耳鼻咽喉科では、内視鏡(ファイバースコープ)を使って、鼻の奥から喉、声帯までを直接観察することができるため、これらの病変を正確に診断することが可能です。さらに、「咳をしている時に、片方の耳が痛む」といった症状がある場合も、耳と喉が耳管で繋がっているため、関連を調べる必要があります。このように、咳だけでなく、鼻水、鼻づまり、喉の違和感といった症状が、パズルのピースのように組み合わさっている場合は、その原因が鼻や喉にある可能性を強く疑い、耳鼻咽喉科の専門医に相談してみてください。
-
咳が止まらない時に考えられる主な病気
二週間以上続く、しつこい咳。それは、体が発している何らかの異常を知らせるサインかもしれません。単なる風邪の治りかけと片付けてしまう前に、長引く咳の背後に隠れている可能性のある、いくつかの代表的な病気を知っておくことが重要です。まず、最も頻度が高い原因の一つが、「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」です。これは、風邪やインフルエンザ、アールエスウイルスなどの呼吸器感染症にかかった後、ウイルスはいなくなったにもかかわらず、咳だけが3週間以上にわたって続く状態を指します。ウイルスとの戦いで、気道の粘膜が傷つき、過敏になっているために、少しの刺激で咳が出てしまうのです。次に、近年増加しているのが「咳喘息(せきぜんそく)」です。これは、喘息(気管支喘息)の一種ですが、喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴や呼吸困難はなく、唯一の症状が、長引く空咳(からぜき)であるのが特徴です。特に、夜間から明け方にかけて、あるいは、冷たい空気やタバコの煙、会話などで咳が悪化する傾向があります。これを放置すると、本格的な気管支喘息に移行することもあるため、早期の治療が重要です。鼻の症状を伴う場合は、「副鼻腔炎(蓄膿症)」や「アレルギー性鼻炎」が原因となっている可能性も高いです。鼻で作り出された粘り気のある鼻水が、喉の奥に落ちる「後鼻漏(こうびろう)」となり、それが気管を刺激して、痰が絡んだような湿った咳を引き起こします。また、胸焼けや、酸っぱいものがこみ上げてくる感じがある場合は、「逆流性食道炎」が咳の原因となっていることもあります。胃酸が食道に逆流し、その刺激が神経を介して、咳を誘発するのです。その他にも、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった特定の感染症や、降圧薬(ACE阻害薬)の副作用、そして頻度は低いですが、肺がんや肺結核といった、重篤な病気が隠れている可能性もゼロではありません。このように、長引く咳の原因は多岐にわたります。自己判断はせず、専門医による正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩です。
-
子どもの風邪で迷ったら何科へ行く?
子どもの突然の発熱や咳、鼻水。特に、まだ言葉で症状をうまく伝えられない小さなお子さんの場合、保護者は大きな不安を感じるものです。そんな時、どの病院に連れて行けば良いのか、診療科選びに迷うこともあるでしょう。子どもの風邪における、病院選びの基本を知っておきましょう。まず、子どもの体調不良で、第一に頼るべきなのは「小児科」です。小児科医は、新生児から思春期までの、子どもの成長と発達、そして病気の全てを専門とするエキスパートです。子どもは、大人とは体のつくりも、病気の進行の仕方も異なります。また、薬の量も、体重や年齢に応じて、きめ細かく調整する必要があります。小児科医は、これらの子どもの特性を熟知しており、風邪の症状の裏に隠れた、子ども特有の病気を見つけ出すことにも長けています。まずは、信頼できるかかりつけの小児科を見つけておくことが、何よりも安心に繋がります。しかし、症状によっては、「耳鼻咽喉科」が非常に頼りになる場合があります。例えば、鼻水や鼻づまりがひどく、夜も眠れない、あるいは中耳炎を繰り返しているようなケースです。耳鼻咽喉科では、専用の器具で鼻水を吸引してくれたり、耳の中の状態を詳しく診てくれたりします。また、ゼロゼロ、ケンケンといった、犬の鳴き声のような咳(クループ症候群)が出る場合も、喉頭という喉の奥の専門家である耳鼻咽喉科が適しています。どちらを受診すべきか迷った時の簡単な目安は、熱や全身のだるさが主症状なら小児科、鼻水や喉の痛みが主症状なら耳鼻咽喉科、と考えると良いでしょう。もちろん、小児科を受診して、そこで耳鼻咽喉科的な処置が必要と判断されれば、紹介してもらうことも可能です。大切なのは、保護者の自己判断で様子を見すぎないこと。特に、ぐったりして元気がない、水分が摂れない、呼吸がおかしい、けいれんを起こした、といった場合は、診療時間外であっても、救急外来を受診する必要があります。
-
胃が痛い時に考えられる主な病気
「胃が痛い」と一言で言っても、その痛みの性質や、伴う症状によって、考えられる病気は様々です。自分の症状をよく観察し、どのような病気の可能性があるのかを知っておくことは、適切な診療科を選び、医師に症状を伝える上で、非常に役立ちます。まず、急に始まったキリキリとした痛みであれば、「急性胃炎」が考えられます。暴飲暴食や、アルコールの飲み過ぎ、ストレス、あるいは鎮痛剤の副作用などが引き金となり、胃の粘膜がただれて炎症を起こす状態です。吐き気や胃もたれを伴うこともあります。痛みが、食事中や食後、あるいは空腹時に、周期的に現れる場合は、「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」の可能性があります。これらは、胃酸によって、胃や十二指腸の粘膜が深く傷ついてしまった状態で、悪化すると出血(吐血や下血)や、穿孔(胃に穴が開く)といった、重篤な状態に至る危険性があります。ピロリ菌の感染が、大きな原因の一つとされています。胸のあたりが焼けるように熱い感じ(胸焼け)や、酸っぱいものがこみ上げてくる感じ(呑酸)を伴う、みぞおちの痛みであれば、「逆流性食道炎」が疑われます。胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる病気です。食後すぐに横になる習慣や、肥満、加齢などが原因となります。特に、検査をしても、胃に潰瘍や炎症といった、目に見える異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれや、食後の膨満感、みぞおちの痛みが慢性的に続く場合は、「機能性ディスペプシア」と診断されることがあります。これは、胃の運動機能の異常や、知覚過敏が原因と考えられており、ストレスが大きく関与していると言われています。また、感染性の「ウイルス性胃腸炎」でも、腹痛、下痢、嘔吐と共に、胃の痛みが現れます。そして、見逃してはならないのが、「胃がん」です。初期の胃がんは、自覚症状がほとんどありませんが、進行すると、持続的な胃の痛みや不快感、食欲不振、体重減少といった症状が現れることがあります。これらの病気は、症状だけでは区別がつきにくいため、正確な診断のためには、胃カメラなどの専門的な検査が不可欠です。
-
その胃の痛み、本当に胃が原因ですか
みぞおちのあたりが痛むと、私たちは反射的に「胃が悪い」と考えがちです。しかし、お腹の上部は、胃以外にも、様々な重要な臓器が密集している場所です。そして、それらの臓器の病気が、胃の痛みとよく似た症状を引き起こすことは、決して珍しくありません。「胃が痛い」という自己判断が、時に、重大な病気の見逃しに繋がる危険性があることを、知っておく必要があります。胃のすぐ隣にあり、症状が混同されやすい臓器の代表格が、「胆嚢」と「膵臓」です。胆嚢に石ができる「胆石症」は、普段は無症状のことも多いですが、石が胆嚢の出口に詰まると、「胆石発作」と呼ばれる、みぞおちから右の肋骨下にかけての、転げ回るほどの激痛を引き起こします。特に、脂っこい食事をした後に起こりやすいのが特徴です。また、アルコールの飲み過ぎなどが原因で、膵臓に急激な炎症が起こる「急性膵炎」も、みぞおちの激しい痛みが特徴です。この痛みは、背中にも突き抜けるように感じられることが多く、嘔吐を伴い、重症化すると命に関わる、緊急性の高い病気です。そして、最も注意しなければならないのが、「心臓」の病気です。「狭心症」や「心筋梗塞」といった、心臓の血管が詰まる病気の痛みが、胸だけでなく、みぞおちの痛みとして感じられる「放散痛」として現れることがあります。特に、高齢者や糖尿病患者では、典型的な胸の痛みが出にくく、胃の不快感としてしか自覚されないこともあります。「階段を上るとみぞおちが痛む」「冷や汗や息苦しさを伴う」といった場合は、心臓からの危険信号かもしれません。この場合は、一刻も早く、循環器内科や救急外来を受診する必要があります。その他にも、大腸のうち、みぞおちの近くを通る「横行結腸」の病気や、稀ですが、大動脈の壁が裂ける「大動脈解離」という、極めて危険な病気が、みぞおちの痛みとして発症することもあります。胃の痛みだと決めつけず、痛みの性質や、伴う症状をよく観察し、少しでも「いつもと違う」と感じたら、迷わず専門医に相談してください。
-
かかとが痛い時に考えられる他の病気
朝の一歩目のかかとの痛みは、多くの場合、足底腱膜炎が原因ですが、それ以外の病気が隠れている可能性もゼロではありません。なかなか症状が改善しない場合や、典型的な足底腱膜炎とは少し違う症状がある場合は、他の病気の可能性も視野に入れる必要があります。足底腱膜炎と症状が似ている病気の一つに、「踵骨棘(しょうこつきょく)」があります。これは、足底腱膜がかかとの骨を引っ張り続けることで、骨の一部がトゲのように、前に向かって突き出してしまった状態です。レントゲンを撮ると、この骨のトゲがはっきりと写ります。踵骨棘がある人、全てに痛みがあるわけではありませんが、このトゲが周囲の組織を刺激し、痛みの原因となることがあります。治療法は、足底腱膜炎とほぼ同様です。次に、高齢者に多いのが、「踵部脂肪褥(しょうぶしぼうじょく)の萎縮」です。かかとには、衝撃を吸収するための、厚い脂肪のクッションがありますが、加齢と共に、この脂肪組織が痩せて薄くなってしまうことがあります。クッションが失われることで、骨が直接地面からの衝撃を受けるようになり、歩くたびに痛みを感じるようになります。また、かかとの痛みに加えて、足の裏や指先に、ジンジンとしたしびれや、焼けるような痛みを伴う場合は、神経の圧迫が原因である可能性も考えられます。足首の内くるぶしの下で神経が圧迫される「足根管症候群」や、腰に原因がある「坐骨神経痛」などが、かかとの痛みとして感じられることもあります。さらに、頻度は低いですが、子どもや若いスポーツ選手では、かかとの骨の「疲労骨折」も考えられます。繰り返されるジャンプやランニングによって、かかとの骨に微細な骨折が生じるもので、安静にしていても痛みが続くのが特徴です。そして、非常に稀ですが、関節リウマチなどの膠原病や、細菌感染による骨髄炎、骨の腫瘍などが、かかとの痛みの原因となることもあります。痛みが長引く、腫れや熱感が強い、夜間にも痛むといった場合は、安易に自己判断せず、必ず整形外科などの専門医を受診し、正確な診断を受けることが重要です。
-
風邪をひいたら内科か耳鼻咽喉科か
咳、鼻水、喉の痛み、そして発熱。風邪をひいた時、多くの人が経験するこれらの症状ですが、いざ病院へ行こうとすると、「内科と耳鼻咽喉科、どちらに行けば良いのだろう」と迷ってしまうことは少なくありません。どちらも風邪を診てくれる診療科ですが、それぞれに専門性と得意分野があります。自分の症状に合わせて適切な科を選ぶことが、つらい症状からの早期回復に繋がります。まず、一般的な選択肢となるのが「内科」です。発熱や頭痛、関節の痛み、全身の倦怠感といった、体全体の症状が強く出ている場合は、内科を受診するのが適しています。内科医は、全身を総合的に診る専門家であり、風邪の症状が、肺炎や他の内臓疾患など、より深刻な病気の一部ではないかを判断してくれます。普段から通っているかかりつけの内科医がいる場合は、自分の体質や既往歴を理解してくれているため、より安心して相談できるでしょう。一方、「耳鼻咽喉科」は、その名の通り、耳・鼻・喉の専門家です。喉の痛みが唾も飲み込めないほど激しい、声がかすれて出ない、鼻づまりがひどくて呼吸が苦しい、あるいは耳の痛みを伴う、といったように、特定の局所的な症状が際立って強い場合には、耳鼻咽喉科がその専門性を大いに発揮します。耳鼻咽喉科では、内視鏡を使って鼻の奥や喉のさらに奥、声帯までを直接観察することができるため、より正確な診断が可能です。また、喉に直接薬を噴霧したり、ネブライザーで薬剤を吸入したりといった、専門的な処置を受けられるのも大きなメリットです。どちらか迷った時の簡単な見分け方は、症状の主役がどこにあるか、です。全身のだるさが主役なら内科へ、鼻や喉のつらさが主役なら耳鼻咽喉科へ、と考えると分かりやすいでしょう。
-
病院で行われる足のしびれの検査
片足のしびれを主訴に整形外科などを受診した場合、医師は、その原因を正確に突き止めるために、いくつかの診察や検査を組み合わせて行います。どのような検査が行われるのか、その目的と内容を知っておくことで、安心して診察に臨むことができます。まず、診察の基本となるのが、丁寧な「問診」です。いつから、足のどの部分が、どのようしびれるのか、どんな時に症状が悪化するのか、過去の病歴や怪我の有無などを、詳しく聞き取ります。この問診から、医師はある程度の原因疾患を推測します。次に、「身体診察」が行われます。医師が、足の感覚が鈍くなっていないか(触覚、痛覚)、筋肉の力が弱まっていないか(筋力テスト)、腱反射に異常はないか、などを調べます。また、ヘルニアを疑う場合は、仰向けに寝て足を上げる「SLRテスト」や、アキレス腱を叩くテストなど、特定の病気を誘発・確認するための、徒手検査を行います。問診と身体診察で、ある程度のあたりをつけたら、診断を確定させるための「画像検査」へと進みます。まず行われるのが「レントゲン(X線)検査」です。これは、主に骨の状態を調べるための検査で、骨折や脱臼、加齢による骨の変形(変形性腰椎症)、腰椎のずれ(すべり症)などを確認することができます。しかし、レントゲンでは、ヘルニアの原因である椎間板や、神経そのものを直接見ることはできません。そこで、より詳細な情報が必要な場合に、最も有用なのが「MRI検査」です。MRIは、磁気を利用して体の断面を撮影する検査で、椎間板がどの程度飛び出しているか、神経がどれくらい圧迫されているか、といった状態を、非常に鮮明に描き出すことができます。ヘルニアや脊柱管狭窄症の確定診断において、最も重要な検査と言えます。場合によっては、「CT検査」が行われることもあります。CTは、X線を使って体を輪切りにする検査で、骨の細かい変形などを、より立体的に評価するのに優れています。これらの画像検査に加え、神経の機能そのものを調べる「神経伝導速度検査」や「針筋電図」といった、電気生理学的な検査が行われることもあります。これは、神経に電気刺激を与え、その伝わる速さや筋肉の反応を見ることで、神経のどの部分に、どの程度の障害があるのかを、客観的に評価する検査です。