風邪をひいた後、他の症状は治まったのに、咳だけが何週間も、時には何ヶ月も続いている。特に、夜中や明け方に激しく咳き込んで目が覚める。エアコンの冷たい風や、タバコの煙、会話などをきっかけに、一度咳き込むと止まらなくなる。このような症状に心当たりがある場合、それは単なる「咳が長引いている」状態ではなく、「咳喘息(せきぜんそく)」という、専門的な治療が必要な病気かもしれません。咳喘息は、気管支喘息の一歩手前の段階とも言える病気で、近年、長引く咳の原因として、その認知度が高まっています。気管支喘息との大きな違いは、喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)や、呼吸困難といった症状がなく、唯一の症状が「慢性的な空咳(からぜき)」であるという点です。症状が咳だけであるため、本人も周囲も、喘息だとは気づきにくく、風邪や気管支炎として見過ごされ、市販の咳止めや、一般的な風邪薬で対処しようとして、なかなか改善しないケースが非常に多く見られます。咳喘息の根本的な原因は、気管支喘息と同様に、気道の粘膜に起きている「慢性的なアレルギー性の炎症」です。この炎症によって、気道が非常に敏感な状態(気道過敏性)になっており、通常では何ともないような、わずかな刺激(温度差、ホコリ、ストレスなど)に対しても、過剰に反応して、激しい咳の発作を引き起こしてしまうのです。診断は、呼吸器内科で行われます。特徴的な症状の問診に加え、呼吸機能検査で、気管支拡張薬を吸入した後に、気道の狭さが改善するかどうかなどを調べることで、診断がつけられます。治療の基本は、市販の咳止めではなく、気道の炎症そのものを抑えるための「吸入ステロイド薬」です。この薬を、毎日、症状がない時でも継続して使用することで、気道の過敏な状態を鎮め、咳の発作を予防します。咳喘息を放置していると、約3割の人が、本格的な気管支喘息に移行すると言われています。たかが咳と侮らず、長引く場合は、呼吸器の専門医に相談し、早期に適切な治療を開始することが、将来の健康を守る上で、何よりも重要です。
咳喘息という見過ごされやすい病気