胃の痛みで消化器内科を受診した際、医師から「胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)をしましょう」と勧められることがあります。口や鼻からカメラを入れるという検査に対して、苦しそう、怖い、といったネガティブなイメージを持っている方も少なくないでしょう。「薬だけもらえれば良いのに、本当に検査は必要なの?」と、疑問に思うかもしれません。しかし、胃の痛みの原因を正確に診断し、適切な治療を行う上で、胃カメラは、他のどの検査にも代えがたい、非常に重要な役割を果たすのです。胃カメラの最大のメリットは、医師が、胃や食道、十二指腸の粘膜の状態を、「直接、自分の目で見て確認できる」という点にあります。バリウム検査などのレントゲン検査では、影の形でしか異常を捉えることができませんが、胃カメラであれば、粘膜のわずかな色の変化や、小さな隆起、凹みといった、ごく初期の病変まで、鮮明なカラー映像で観察することが可能です。これにより、急性胃炎の炎症の程度、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の深さや大きさ、そして何よりも、それが良性のものなのか、あるいは悪性のもの(胃がんなど)なのかを、高い精度で判断することができます。また、胃カメラは、ただ「見る」だけの検査ではありません。検査中に、疑わしい部分が見つかった場合、その場で組織の一部を採取する「生検」を行うことができます。採取した組織を、顕微鏡で詳しく調べる病理検査にかけることで、がん細胞の有無などを、確定的に診断することが可能になります。さらに、胃潰瘍や胃がんの大きな原因とされる、「ピロリ菌」の感染の有無も、この生検によって、同時に調べることができます。もし、検査中に、潰瘍からの出血が見られた場合には、その場で止血処置を行うといった、治療的な側面も持っています。最近の胃カメラは、技術の進歩により、非常に細く、しなやかになっています。また、多くの医療機関では、患者さんの苦痛を和らげるために、喉の麻酔を丁寧に行ったり、鎮静剤(軽い眠り薬)を使用したりして、うとうとと眠っている間に、楽に検査を受けられるような工夫がなされています。胃の痛みという症状は、体からの重要なメッセージです。そのメッセージの本当の意味を解読するために、胃カメラは、不可欠で、そして最も信頼できるツールなのです。