私の日常に最初に現れた異変は、朝の通勤電車での、頻繁な立ちくらみでした。満員電車の中で、目の前がスーッと暗くなる感覚。最初は、寝不足のせいだと思っていました。次に現れたのは、会社の階段を上る時の、異常な息切れでした。同期は平然と駆け上がっていくのに、私だけが、三階に着く頃には、まるで全力疾走でもしたかのように、肩で息をしている。体力がないだけだ、運動不足なんだと、自分に言い聞かせました。氷をガリガリと食べることが、いつの間にかやめられない習慣になっていたことにも、何の疑問も抱きませんでした。顔色が悪いと同僚に心配されても、「夜更かししちゃって」と、笑ってごまかす日々。私の体は、確実に悲鳴を上げていたのに、私はそれを「気合が足りない」という精神論で、ねじ伏せていたのです。その代償を、私は最も避けたい形で支払うことになりました。ある金曜日の夜、仕事帰りのターミナル駅のホームで、電車を待っていた時のことです。一週間の疲労と、週末の解放感が入り混じる雑踏の中で、私の視界は、突然、ゆっくりと白んでいきました。遠くから聞こえる駅のアナウンスが、水の中にいるようにくぐもって聞こえる。立っているはずなのに、自分の足の感覚がない。これは、まずい。倒れる。そう直感した私は、最後の力を振り絞って、近くの柱にしがみつきました。その場でうずくまり、数分間、動くことができませんでした。あの時の、死ぬかもしれないという恐怖。そして、大勢の人の前で倒れるかもしれないという羞恥心。その強烈な体験が、ようやく私の重い腰を上げさせたのです。翌日、近所の内科クリニックに駆け込み、血液検査を受けた結果、私は「重度の鉄欠乏性貧血」であると診断されました。ヘモグロビン値は、正常値の半分以下。医師からは、「よくこの数値で普通に生活していましたね」と、半ば呆れ顔で言われました。その日から、鉄剤の服用が始まりました。そして、治療を始めて一ヶ月もすると、私の体は、まるで生まれ変わったかのように軽くなりました。朝、すっきりと目が覚める。階段を上っても、息が切れない。仕事にも集中できる。私は、初めて気づいたのです。私がこれまで「自分のダメな性格」だと思っていたものの多くが、実は、単なる貧血の症状だったのだ、と。