単なる風邪による声がれは、通常、一週間から十日程度で、自然に改善していきます。しかし、特別な原因が見当たらないにもかかわらず、「二週間以上」、あるいは「一ヶ月以上」にわたって、声のかすれ(嗄声)が、良くならずに続く、あるいは徐々に悪化していく場合、それは単なる喉の不調として、決して見過ごしてはならない、危険なサインです。その背後には、「喉頭がん」という、命に関わる病気が隠れている可能性があるからです。喉頭がんは、その名の通り、喉頭、特に声を出すための「声帯」に発生する悪性腫瘍です。喫煙と、過度の飲酒が、その最大の危険因子として知られています。そして、この喉頭がんの、最も早期に、そして最も多く現れる初期症状こそが、「治らない声がれ」なのです。声帯という、声を出すための非常に繊細な場所に、がんという異物ができることで、声帯の正常な振動が妨げられ、雑音の混じった、ガラガラとした、あるいはかすれた声になってしまうのです。この声がれは、風邪のような喉の痛みを伴わないことが多く、そのため、多くの人が「歳のせいかな」「タバコの吸いすぎかな」と、自己判断で放置してしまいがちです。しかし、この初期段階で耳鼻咽喉科を受診し、喉頭ファイバースコープ検査を受ければ、ごく早期の段階でがんを発見することが可能です。声帯に発生する喉頭がんは、早期に発見できれば、放射線治療や、レーザーを用いた内視鏡手術など、声を温存したまま、高い確率で根治が望めるがんの一つです。しかし、発見が遅れ、がんが進行してしまうと、声帯を全て摘出する「喉頭全摘出術」が必要となり、永久に自分の声を失ってしまうことにもなりかねません。また、声がれに加えて、「喉の違和感や異物感」「食べ物が飲み込みにくい感じ」「血の混じった痰が出る」といった症状がある場合は、がんが進行している可能性も考えられ、さらに注意が必要です。たかが声がれと侮らない。特に、喫煙習慣のある中高年の方で、原因不明の声がれが二週間以上続く場合は、迷わず、すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。その少しの勇気が、あなたの「声」と「命」を守ることに繋がるのです。