それは夕食の準備を急いでいた、ありふれた平日の夕暮れ時のことでした。新しく研いだばかりの三徳包丁でカボチャを切ろうとした瞬間、刃が滑り、私の左手の人差し指を深く切り裂きました。一瞬何が起きたのか分からず、遅れてやってきた激痛と、シンクを真っ赤に染めるほどの大量の出血に、私はパニックに陥りました。水道水で傷口を洗いながら清潔なタオルで強く圧迫しましたが、タオルの表面に次々と血が滲み出してくるのを見て、これは自力で治せるレベルではないと確信しました。しかし、そこで立ち止まってしまったのが「何科に行けばいいのか」という疑問です。内科は風邪のイメージだし、近所のクリニックはすでに受付を終了している時間帯でした。私は震える手で救急相談センターに電話をし、現在の状況を伝えました。相談員の方は「出血が止まらないなら、外科の当直医がいる総合病院へ行ってください」と的確に指示してくれました。タクシーで駆け込んだ病院の救急受付で、私はようやく一安心しましたが、診察室で待っていたのは、単なる止血以上の精密なチェックでした。医師は私の指を触りながら「指の先を曲げられますか?」「ここを触られて感覚はありますか?」としつこいほど尋ねました。後で知ったことですが、これは腱や神経が切れていないかを確認するための重要なテストだったのです。幸いにも深い筋層までは達していましたが、主要な神経は無事でした。その場で局所麻酔を打ち、三針ほど縫合する処置を受けました。麻酔が効いていく感覚とともに、ようやく心臓の鼓動が落ち着いたのを覚えています。もし私が「外科」というキーワードを知らずに皮膚科を探して時間を浪費していたら、あるいは家で無理に止血を試み続けていたら、傷口からの感染が進んでいたかもしれません。会計を済ませて帰宅する際、医師から「指は複雑な構造をしているから、深く切ったときは絶対に自分で判断してはいけないよ」と諭されました。切り傷は目に見える部分だけでなく、その奥に隠れたダメージが怖いのだと痛感しました。この体験を経て、私は家の中に緊急時の連絡先リストを貼り、清潔なガーゼを常備するようになりました。指を切るという日常的な事故が、一歩間違えれば機能喪失に繋がる重大な事態であることを知り、今では包丁を握る時の意識も変わりました。何科を受診すべきかを知っておくことは、自分自身の命や体の一部を守るための、最も基本的なリテラシーなのだと学んだ苦い、しかし貴重な経験となりました。
包丁で深く指を切った私が病院の選択で学んだ教訓