それは数年前の蒸し暑い午後のことでした。仕事に集中していた私は、突然経験したことのないような鋭い衝撃を後頭部に感じ、それと同時に視界が激しく歪んで猛烈な吐き気に襲われました。それまでの人生で二日酔いや風邪による胃腸炎での吐き気は何度も経験してきましたが、その時の感覚は明らかに異質で、胃から込み上げるというよりは脳の奥底から何かが一気に噴き出してくるような、逃げ場のない不快感でした。私は直感的にこれは胃腸の病気ではないと察知し、同僚の助けを借りてすぐさま近隣の脳神経外科へと向かいました。病院に到着した時も吐き気は一向に収まらず、何度も激しく嘔吐を繰り返しましたが、医師は私の瞳孔の反応や手足の動きを素早く確認し、即座に緊急のMRI検査を手配してくれました。検査の結果判明したのは、脳の深部でのごく小さな出血でした。幸いにも発症から受診までの時間が非常に短かったため、大がかりな手術は免れ、点滴と厳重な安静による入院加療で事なきを得ましたが、もしあの時に吐き気は何科に行けばいいのかと迷い、自宅で横になって様子を見ていたら、あるいは単なる食あたりだと思い込んで放置していたら、今頃自分はどうなっていたかと思うと今でも背筋が凍る思いがします。この過酷な体験を通じて私が痛切に感じたのは、吐き気と共に現れる「急激な頭の痛み」や「視界の異常」を絶対に見逃してはいけないということです。世の中には吐き気を伴う片頭痛に長年悩む人も多いですが、これまで経験したことのない種類の痛みや、バットで殴られたような衝撃を伴う場合は、迷わず脳の専門医を受診すべきです。脳神経外科は手術をするためだけの場所ではなく、脳の血管や組織のわずかな異変を最新の画像診断装置で可視化し、致命的なリスクを未然に防いでくれる場所です。吐き気という一見ありふれた症状の裏に、脳という生命の司令塔の危機が隠れている可能性があることを、私は自らの身体で学びました。もし皆さんの周りで激しい頭痛と共にもどしている人がいたら、消化器科ではなく迷わず脳神経外科や救急外来へ連れて行ってあげてください。その一瞬の判断が、その後の人生を大きく分ける決定的な分かれ道となるのです。