私は四十五歳になるまで、自分の健康に一点の曇りもないと信じて疑いませんでした。都内のIT企業で管理職を務め、深夜まで及ぶ残業や接待という名の会食も、若さと気力で乗り切ってきました。しかし、ある年の秋口、私の日常に奇妙な変化が訪れました。それまでは一度眠りにつけば朝まで目が覚めることなどなかったのに、深夜の二時や三時に、猛烈な尿意で目が覚めるようになったのです。最初は「少し冷えてきたせいだろう」とか「寝る前に飲んだお酒のせいかな」と軽く考えていました。しかし、一晩に一度だったトイレの回数は、二週間も経つと二度、三度と増えていき、そのたびに喉がカラカラに乾いて、キッチンの水道水をコップ数杯飲み干さなければ落ち着かなくなりました。日中の会議中も、一時間おきに席を立たなければならないほどの頻尿に襲われ、部下からは「どこかお悪いのですか」と心配される始末。それでも私は、これが糖尿病のサインだとは夢にも思っていませんでした。私の頭の中にある糖尿病のイメージは、もっと太った人がなる病気であり、自分のような体型の人間には無縁だと思い込んでいたのです。ある日、実家に帰省した際に、元看護師の母が私の様子を見て「あんた、ちょっとトイレが近すぎない?それに、なんだか甘ったるい匂いがする気がするわ」と鋭く指摘しました。母に促されるまま、翌日に近所の内科を受診し、軽い気持ちで血液検査を受けたところ、告げられた数値は衝撃的なものでした。空腹時血糖値が二百を超え、一、二ヶ月の平均血糖値を示すHbA1cは九パーセントに達していました。医師からは「典型的な二型糖尿病です。今出ている頻尿は、身体が糖を捨てようとしている証拠ですよ」と説明を受けました。私の身体の中で、あの日々摂取していたエナジードリンクや締めのラーメンの糖分が、処理しきれずに血液を汚し、腎臓を酷使していた事実に、背筋が凍る思いがしました。診断を受けたその日から、私の生活は一変しました。糖尿病における頻尿は、単にトイレが近いという不便さだけでなく、身体のエネルギー管理システムが崩壊しているという警告だったのです。治療として教育入院を経験し、栄養士の方から「糖が尿に出るということは、食べた栄養をそのままドブに捨てているようなものだ」と教わったとき、ようやく事の重大さを理解しました。現在、私は投薬と食事療法、そして毎日のウォーキングを継続し、血糖値をコントロールしています。おかげさまで、あんなに執拗だった夜中の頻尿は嘘のように収まり、朝までぐっすりと眠れるようになりました。あの時、母の指摘を無視して「ただの疲れ」で済ませていたら、今頃は人工透析や失明といった恐ろしい合併症に怯えていたかもしれません。頻尿という些細な変化の裏側に、人生を左右する大きな病が隠れていることを、私は身を以て学びました。もし、あなたやあなたの周りの人が、最近急にトイレが近くなったと感じているなら、それは身体が発している切実なSOSかもしれません。
夜中のトイレで目が覚める異常に気づき糖尿病を疑った話