花粉症の時期になると「風邪でもないのに咳が止まらない」「夜になると胸が苦しくなって咳き込む」といった症状を訴える人が急増します。多くの人はこれを「花粉のせいで喉がイガイガしているだけ」と考えがちですが、実はこの背後には、花粉をトリガーとして目覚めてしまった「咳喘息」や「気管支喘息」という深刻な呼吸器疾患が隠れていることがあります。花粉の粒子は鼻の粘膜で捉えられることが多いですが、さらに細かく砕かれた花粉の破片や、気圧の変化とともに吸い込んだアレルゲンは、気管支の奥深くまで到達します。そこで炎症が起きると、気道が敏感になり、わずかな刺激で収縮してしまいます。花粉症は何科に行くべきかという問題において、もし「咳」が主症状となっているのであれば、一般内科よりもさらに専門性の高い「呼吸器内科」の門を叩くべきです。呼吸器内科では、呼気一酸化窒素(FeNO)検査などの最新の機器を用いて、気道の炎症度を数値で可視化することができます。単なる喉の腫れなのか、それとも肺の入り口に火種があるのかを科学的に判別し、必要であれば吸入ステロイド薬を用いた治療を開始します。吸入ステロイド薬は、かつての飲み薬としてのステロイドとは異なり、局所(気道)にのみ作用するため副作用が少なく、気道の炎症を根本から鎮めることができます。もし、これを放置して「市販の咳止め」だけで誤魔化し続けてしまうと、気道の粘膜が慢性的に厚くなってしまい、将来的には不可逆的なダメージを肺に負ってしまう「リモデリング」という現象を招く恐れがあります。そうなれば、花粉の時期だけでなく一年中息苦しさに悩まされることになりかねません。医師として強調したいのは、咳を「ただの反射」と甘く見ないことです。大人の花粉症において、咳が続くことは全身の酸素供給能力を低下させ、心臓にも負担をかけます。特に、会話の途中で咳き込んでしまう、階段を上ると息が切れるといった自覚症状があるなら、それは身体が深刻な酸欠状態にある警告です。呼吸器内科医は、鼻の症状に対しても精通しており、鼻炎と喘息を「一つの気道疾患」として統合的に治療してくれます(One Airway, One Diseaseという概念)。鼻の薬をもらいに耳鼻科へ行き、咳の相談を忘れ、結局長引いてしまう……そんな不幸なサイクルを断ち切るためにも、咳が出る花粉症の方は、呼吸器のスペシャリストを主治医に選ぶことが、自分自身の命と健康を守るための最も賢明な戦略となるのです。