日々、診察室で多くの保護者の方々と向き合う中で、水いぼの治療方針について相談を受けることは非常に多いです。特に「放置すれば自然に治ると聞いたのに、なぜピンセットで取る必要があるのか」という疑問は、今の時代の情報過多な状況を反映していると感じます。皮膚科医の視点から、あえて痛みを伴うピンセットでの摘除を推奨するのには、明確な医学的、そして社会的な理由があります。まず医学的な側面ですが、水いぼはヒトパルボウイルスではなくポックスウイルス科の軟属腫ウイルスによるもので、このウイルスは感染力が非常に強く、自己接種といって、本人が無意識に患部を触り、その手で別の場所を触ることで、ネズミ算式に個数が増えていきます。一個や二個のうちならまだしも、百個、二百個と増えてからでは、ピンセットでの処置自体が子供にとって耐えがたい長時間に及び、結局は全身麻酔が必要な事態にもなりかねません。初期の段階で「芯」をピンセットで抜くことは、感染源を物理的に根絶する最も確実な「小手術」なのです。また、水いぼは痒みを伴うことが多く、掻き壊した傷口から黄色ブドウ球菌などが入り込むと、伝染性膿痂疹、いわゆる「とびひ」を引き起こします。こうなると治療はさらに複雑になり、抗生剤の内服も必要になります。社会的な側面としては、保育園や幼稚園、学校でのプール活動が挙げられます。現在、日本小児科学会の指針では、水いぼがあってもプールに入ること自体は制限されないとされていますが、現場の判断は依然として厳しく、完全に治るまで入水を禁止されたり、専用のラッシュガード着用を求められたりすることが多々あります。子供にとって、夏の大切な楽しみを奪われる精神的苦痛は、数分のピンセット処置の痛みよりも大きいのではないか、と私は考えています。もちろん、すべての症例で無理に取ることを勧めるわけではありません。個数が少なく、本人が過度に怖がる場合や、自然治癒が間近いと思われる場合には経過観察を選択することもあります。しかし、積極的に取るという選択肢があるからこそ、私たちは麻酔テープの処方や、処置後の丁寧なスキンケア指導に全力を尽くしています。ピンセット摘除は、単なる古い治療法ではなく、現代においても「最短で完治を目指すための合理的選択」なのです。私たちは、子供たちの肌の健康を守ると同時に、彼らが集団生活の中で伸び伸びと過ごせる環境を整えるために、あえて厳しい治療を提案することもあります。その意図を理解していただき、親子で納得して治療に取り組めるよう、これからも丁寧な説明を続けていきたいと考えています。