それは、幼稚園のお泊まり保育を目前に控えた、ある夏の終わりの出来事でした。5歳になる息子が、夕方から「鼻がムズムズする」と言い出したとき、私はいつものアレルギー性鼻炎かと思って軽く受け流していました。しかし、その夜から体温が三十八度を超え、翌朝には喉の奥から絞り出すような重い咳が出始めたのです。小児科を受診し、検査の結果告げられた病名は、まさかのRSウイルスでした。赤ちゃんがかかる病気だと思い込んでいた私は、5歳でもなるんですか、と医師に問い返してしまいました。先生は「5歳なら重症化はしにくいけれど、咳はかなりしつこいですよ」と静かに教えてくれました。そこから、息子と私の一週間にわたる戦いが始まりました。二日目、三日目と熱は下がらず、最高で三十九度五分まで上がりました。食欲は完全に失せ、大好きなゼリー飲料を一口ずつ運ぶのが精一杯。一番辛かったのは夜間で、一回咳が出始めると五分以上も止まらず、最後には食べたものを吐き戻してしまうほどの激しさでした。息子の胸に耳を当てると、小さな「ゼーゼー」という音が聞こえ、夜の静寂の中でその音を聴いていると、私は言いようのない不安に押しつぶされそうになりました。息子は苦しそうな顔で「お母さん、喉の中に何かが詰まっているみたい」と訴え、私は加湿器をフル稼働させ、背中をさすり続けることしかできませんでした。四日目の朝、ようやく熱が三十七度台まで落ちましたが、咳の勢いはむしろ増しているように感じました。幼稚園の先生にはお泊まり保育の欠席を連絡しましたが、電話の向こうで聞こえる元気な園児たちの声と、目の前で咳き込む息子の対比に、私は自分の管理不足を責めずにはいられませんでした。しかし、五日目を過ぎる頃、あんなに粘り気のあった痰が少しずつ切れやすくなり、息子の顔にようやく生気が戻ってきました。「お腹空いた、うどんが食べたい」と言ってくれたときの喜びは、一生忘れられません。結局、全ての症状が落ち着くまでに十日間を要し、息子が再び元気に幼稚園へ登校できたのは、発症から二週間後のことでした。この一週間を通じて私が学んだのは、5歳という「もう大きい」という安心感が、時に症状を見落とす油断に繋がるということです。5歳児であっても、RSウイルスは肺の奥深くまでダメージを与え、精神的にも肉体的にも限界まで追い詰めます。あの激しい咳の響きは、身体が一生懸命にウイルスを追い出そうとしている軍靴の音だったのだと、今は思えます。RSウイルスは赤ちゃんの病気という固定観念を捨て、わが子の「呼吸の頑張り」に敏感になってあげることの大切さを、身を以て痛感した一週間でした。